金曜日, 8月 17, 2012

「相手の心に届く言葉で話す」

 先日、税理士会の研修に参加し、法務・税務のどちらにも精通している大学院教授の講義を聴く機会がありました。
 5時間超の長丁場でしたが、法務の視点からの話はとても興味深く、その話の中で特に私の興味をひいたのは、「相手の心に届く言葉で話す」という発言でした。

 10年ほど前の改正により、税理士補佐人制度(※)ができ、今後ますます税理士が裁判に参加する機会が増えるだろう状況になったことから、法務と税務のメンタリティ(考え方、心理的傾向)の違いについての話がありました。
(※税理士補佐人制度・・・税理士が、租税に関する事項について、補佐人として弁護士である訴訟代理人や当事者に付き添って、裁判所において出頭・陳述をすることができるようになった制度。)
 “法務を勉強し、それを基礎とする裁判官に対し、裁判で、税法の論理を前面に出して主張していくと負ける確率が高い。メンタリティの違いを意識しないと、税理士は訴訟の場でお客様の力にはなれない”とのお言葉でした。例えば、「民法はともかく税法では…」との話の進め方は、それを一生懸命勉強して今の立場がある人にとって素直に耳に入れにくい、ということだそうです。
 勝つためには法務に携わる方の考え方を理解し、同じ事実を述べるにしても、裁判官の知識背景の論理の下、自分の主張である結論にたどり着いてもらいやすい論法を繰り広げる必要がある、と。そのことを「相手の心に届く言葉で話す」、と表現されていたのです。

 日本語が通じる相手であると忘れがちかもしれませんが、他人が同じ基礎知識や常識(と言われるもの)を持つかどうかは、期待できないことの方が多いと思います。
 仕事中、税務や会計に関してお客様に説明をする機会は数多くあります。しかし数多くあるものの、実はいつも説明しながら難しさを感じ、試行錯誤しています。その業界の専門用語になじみの少ない人に対して、正確だからと専門用語を使うことばかりが適当ではなく、かといって平易な言葉を使って説明すると、まわりくどくかえって話がわかりにくい感じになってしまったり…、と。

 優秀な方は、説明が上手です。要点抑える事や簡略化が上手だからだと思います。それに加えて、相手の立場や考え方、理解度に合わせ、「相手の心に届く言葉で話す」ということが意識されているのではないかと今回の話を聞いた後に思いました。同じ事実を説明するにしても、アプローチの仕方で腹に落ちる・落ちないの違いが、結果的に納得の度合いや結論さえ左右することになる、ということだと思います。
 今までもお客様ごとに説明の仕方などを考えて対応してきたつもりではあるのですが、そのことにしっくりくる言葉を頂けたおかげでとても強く心に残りました。今後も忘れずに仕事に活かしていきたいと思います。

by 松浦