金曜日, 11月 19, 2010

税金の前払いを回避する

中小企業の経営者の方のなかには、個人所有の土地や建物を会社に貸し付けていることがよくあります。
会社から受け取る賃貸料収入は不動産所得の元となり、通常、確定申告して納税することになります。
ただ、実際に賃貸料をもらえていればよいのですが、昨今の不況により会社の資金繰りが悪いため支払いが滞っているケースがあります。
原則として、税金計算上は入金がない場合でも収益は計上しなければならないため、入出金ベースでみると収入よりも経費や税金の支払いの方が多くなることがあります。
今回はこのような税金の前払いを回避する方法を紹介いたします。

次の前提条件を元に説明いたします。
(1)前提条件
 ①本来の賃貸収入:年間120万円
 ②実際の入金額:年間30万円
 ③経費の支払:年間10万円
 ④青色申告特別控除額:年間10万円(青色申告特別控除前の所得金額が限度額です)
 ⑤所得税と住民税の合計税率:30%

この場合、原則として下記のように税額を計算します。
(2)原則計算
・不動産所得 ①-③-④=100万円
・税額 100万円×30%=30万円
・キャッシュフロー ②-③-30万円=▲10万円
この場合、所得は発生しているものの、資金的にはマイナスになります。
ある意味、税金の前払いをしている状態です。

ところが、所得税法では一定の要件を満たした場合に、現金主義(入出金ベース)で所得を計算することが認められています。
この場合は税額計算は以下のとおりになります。
(3)現金主義計算
・不動産所得 ②-③-④=10万円
・税額 10万円×30%=3万円
・キャッシュフロー ②-③-3万円=+17万円
このように、現金主義を選択することにより、手元残ったお金(利益)以上に税金を払うことが防げます。
上記の場合、(2)と(3)における手元現金の差は27万円になりますが、これはあくまで1年間の金額で、5年になればその差は135万円にもなります。

一方、この計算方法には以下のようなデメリットもありますのでご注意ください。
・一年分を超える入金があると逆に納税額は増加する。
・青色申告特別控除額について65万円は適用できず、また、入金額が少なすぎると青色申告特別控除額10万円の権利が全額行使できないことがある。
ちなみに、メリットがある方のイメージ像は、事業所得がなく、賃貸収入が年間300万円以下で、入金額がそれよりも少ない人です。

そして、現金主義で所得計算するためには、以下の手続きと要件があります。
・手続き
 青色申告者で、通常は適用を受けようとする年の3月15日までに届出書を提出する必要があります。
・要件
 適用する年の前々年の不動産所得と事業所得の合計額(青色専従者給与を引く前)が300万円以下でなければなりません。
 (届出がされていても、2年前の上記2つの所得合計が300万円を超えていれば適用できませんので、300万円を超える可能性がある場合は、あまりメリットがありません。)

いずれにしても、納税額の増減は一時的なもので、最終的には清算されます。
あくまで、前払いを防ぐための方法とご理解ください。
来年の3月15日までに届出をすれば平成23年から適用できる可能性がありますので、ご興味のある方は一度担当者までご相談いただければと思います。

by 加古宗利